H 洋子
H 洋子 / 心の中のピアニスト
洋子さん、あなたの人生の風雪は、ずうっと私の魂の励ましと慰めでした。
その重さは、私のすべての器から溢れて、私を小さき者へと還元する。
たった5cmしか開かない窓から、世界を瞬間さっと行き過ぎて消えた幻のような桜の花のひとひらが、ようやくあなたに再生の春を刻んだ。
その出来事の深さは、のほほんと生きている私には測れない。
その前に、頭を深く垂れることしか私にはできないのです。
ある日、あなたから送られてきた一冊の預金通帳には五年間、60個もの日付が打たれていました。
「いつかモーツァルトに」と、貯め続けてくださった、その思いもかけない長い歳月は私の中で昇華して、あなたが弾くピアノの調べのように、いつまでも鳴り響き続けているのです。
『 自分がまだ開く花だと思える間はそう思うがいい
すこしの気恥ずかしさに耐え
すこしの無理をしてでも
淡い賑やかさのなかに
自分を遊ばせておくがいい 』
たしかに他人を励ますことはできても、自分を励ますことは難しい。
しかしこれは、永い苦節に耐えたあなたへの人生からのご褒美では決してなく、ご恩返しですよ。