オクダ トシエ

オクダ トシエ / ニードルアーティスト

煙草のみの常で、僕は、ズボンによく煙草の火で穴をあける。
本人は自業自得なので気にしないのだが、見るに見かねてオクダさんが穴を刺繍で塞いでくださり、周りに何種類の糸を使って一日がかりで見事な絵を描いてくださった。
おかげで薄汚れたズボンは、グッゲンハイム美術館に飾れるほどの現代アートに成り上がってしまった。

ニードルアートの第一人者で、銀座和光で個展をされるほどの方にそんなことをさせてしまった僕は何と罪作りなんだろうと、10年間百回をこえる洗濯に耐えて一糸乱れぬ作品?を前にうなだれる。

手には、富士山よりも高い“針たこ”があり、この人の歩まれた年月の重さ、その生きる事への真摯な思いのただならぬ真剣さを前に、身が縮む思いがして、更に僕は深く落ち込んだ。

ホールにある一枚の額、『月とモーツァルト』は僕にとっては、クレーや、ムンクより格が上だ。
和光の個展は、開場10分で完売だったが、その中の一枚、誰もが一番に欲しがったこの作品だけは、開場前から売約済みで、ご本人が買って、ここに来るはめになった。

この作品を前にすると、いつも命への愛おしさや懐かしさで心がいっぱいになる。
イタリアの古都ベルージャで、ひとり作品作りに励んでいるオクダさん、シリウスの光りが今夜はとっても綺麗でしょう。

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