魚住 修
魚住 修 / パリ五つ星ホテル 『プラザ・アテネ』 シェフ
若い頃、鎌倉の僕のちっちゃな下宿によく矢内原先生や、たくさんの先生方が、遊びに来てくださいました。
先生方の話題は縦横無尽、魔法のような夜でした。
そんな夜には、一日がかりで彼が極上のフランス料理を作ってくれます。
彼の先生方に対する畏敬の念には並々ならぬものがあったのです。
後日、僕はそんな夜を自然の場に作りたいと「P.モーツァルト」を作り、彼は先生方からの宝物をいっぱい胸に抱えて欧州に渡り、欧州で一、二を争うホテル『プラザ・アテネ』の一員となって、もはや長い歳月が過ぎました。
パリの風や、雨や、枯れ葉や、街灯の火、そして文化や、人は彼の人生となりました。
オペラ座、ルーブル、ムランルージュ、どこへ行っても、彼はガイドを二冊買うのです。
自分のものと、そこにはいない僕のために。
彼と共にパリを謳歌した僕の夢の歳月のために。
あの頃、貧乏を楽しんでいた僕たちは、ボロの車を運転し、カーブを切ったはよかったが、何と!ハンドルがすっぽ抜け、おおあわての体たらく(笑)、その奇跡のハンドルが二十数年、時空を超えて二人の間を行き来してます。