天本 英世

天本 英世 / 俳優、ロルカ朗唱家

天本 英世

2003年3月23日、天本英世さんは天に召されました。 黙 祷

十数年ほど前、はじめて天本さんをご自宅にお訪ねした。
高級住宅地の真ん中の、ポコンと置き忘れられたような小山のてっぺんに、ペコンとなおし忘れた凹みのような窪地があり、鬱蒼とした樹木の暗がりの中に、これまた落とし物のようなお家があった。

表札はなかったが、天本さんのお家以外のものではあり得なかった。
窓が破けて、ものが外に溢れてる。

「雨漏りがするので…」
「そりゃ、雨も降りますよ、 天本さん!屋根、はがれてるんだもん!」

でも、これこそ天本英世だ。

目の前の天本さんの中に、天本英世はいない。
魂は常に、遙か天空の城の住人である。

暗雲立ちこめる世紀、世界がそのすべての良心と勇気を捧げた「スペイン市民戦争」のスペインと、その中に虐殺された高貴なロルカをおいては、この人を語ることはできない。

このスペインも天空の城の客人である。
背高く飄々として、ヒュマニティーへの炎のような尊いパッションが、生きていることを証するようにこの人のなかに燃えていた。

私はこの熱に焼かれた。
無垢な子供の瞳の奥にあるものをこよなく愛し、生をともに分かち合うことができた。

この人と時代を共にしえたことを私は誇りとする。

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