2011・3・11 生命へのヴィジョン

本日の会にお越しくださいました皆様、こんにちは。

実は、皆様に本日 お話しさせていただく事になっておりましたが、
先だってのこちらでの十数年ぶりの1メートルを超える大雪の雪かき中、不覚にもぎっくり腰を患い、お伺いすることができなくなりました。

皆様とお話しできますのを楽しみにしておりましたのに、誠に残念でございます。

そこで、お話しさせていただこうと思っておりましたことを拙文に記しましたので、お目をとうしてくだされば、幸甚に存じます。

本日の会は、東北大地震・大津波・原発の放射能汚染による被災者の方々への一周年を記した支援チャリティーの催し事です。

昨年の今日、1000年または1200年に一度と云われる想像を絶する大地震・大津波、そして’安全’と公布 されていた原発のメルトアウトの危険性を払拭できない世界史上最悪のメルトスルーが起こりました。

その当時膨大な報道の中で、私は忘れられない一枚の写真に出会います。
大津波で祖父母、母、いとこを亡くした岩手県立大船渡高3年の佐々木瑠璃さんが、トランペットを胸に一人海を見つめて立っている姿です。
それは、神話が語るような象徴的な光景でした。

その姿は、宇宙の中でも類い希な 生命を育む豊饒の星であるこの地球における命の在り様を思わせました。

東北大地震・大津波の被災でも示されたように生命は確かに、柔らかく、弱く、はかないけれど、グリーン ランドのイスアで発見された38億年も前の化石に痕跡が残る、この星で初めてD N A を持った一粒の種 から、代謝ー繁殖ー進化の壮大な旅をして、いま枝先にたわわに実をつけた生命系統樹の大木を創りました。

しかし、生命潮流が、ここに生きる私達まで流れて来るのには、この星の上であらゆる苦難を乗り超えてこなければなりませんでした。

超大陸を分裂させたスーパープルーム(地核マントルの上昇激流)が大地を破り、数え切れないほどの火 山噴火による灼熱の溶岩と毒ガス、太陽光を遮る塵が地をあまねく覆い、85%の生命種が絶滅しまし た。

宇宙最大の爆発、ガンマ線バーストによりオゾン層が破壊されたため太陽の紫外線をまともに受けて、82%の生命種が絶滅しました。

2億5000万年前には、二酸化炭素の温室効果により、深海のメタンハイドレードが大量に気化し、大気中でメタンと酸素が化学反応した結果、地球上の酸素濃度が生命の存在を許さないほどに低下し、全生 命の96%から98%が大量絶滅した最大の悲劇がおこりました。
地球温暖化がこのまま進めば、これが再び繰り返される。
警鐘が、歴史を超えて鳴り響いてきます。

広島型原爆の約10億倍の破壊と、高さ約300メートルの津波を起こした小惑星の激突により、1億5500万年以上も続いた恐竜時代が終り、地球上の全生命種の76%が絶滅しました。

ちなみに歴史上最高長の津波は1958年米国アラスカ州リツヤ湾で起きた高さ525メーターの大津波です。
東京スカイツリーの展望台の上までをゆうにまる飲みしてしまいます。

幾度かの大氷河期に地球は、数千万年から数億年間、厚さ1Km 以上にもなる氷河に閉じ込められました 。
この 『 スノーボール・アース 』 を外から見て、だれが生命の星-地球と思うでしょう。

今、花が咲き鳥が歌い、生命を謳歌するこの地球が、過去には数億年という途方もない時を、極寒の宇宙をさまよう巨大な棺桶と化す中で、地球上の全生命種の76%が絶滅しました。

おそらく76%の種が絶滅したのは氷河に閉じ込められていく課程の短期で、その後、新しい種が誕生する こともなく、進化の動機も皆無の寂寥の地球を、一万メーターの深海の熱水孔の周りで細々と生き延びた 種が命をつないだ数億年というのは、星や銀河をはかる単位で、宇宙そのものさえ137億年ですから、その時の重さは計り知れない。

彼らに、人のような心が無くて良かった、石のように氷河のように その圧倒的な時の重圧を粛粛と耐え、命の火を守ってくれた。
彼らがいなければ、私達は存在しない。
この極微の英雄たちに、手向けの香華を捧げよう。

ああ、それにしても なんという地球の生命史なのだろう。
しかし、これらの膨大な犠牲は、決して無駄にはならない。
それによって、生命体の D N A は、生き残った より適応能力のあるものが、次の生命発生の土台となり、階段を一段一段上がるように進化する。

事実、2億年間の 『 スノーボール・アース 』 の試練を生き延びた種を土台に、3200万年間こつこ つと準備して、 今日見られる多様な生命種に分枝・進化する祖先のほとんどを生み出した 『 カンブリア大爆発 』(5億3000万年前)がおきた。

この38億年の煉獄の時という元手をかけて 鍛え上げられた成果が、今私達の体の中にある D N A の 正体です。

これらの過酷な試練を乗り越えた結果、今生きてる種で最強の戦士はクマムシです。
ゆっくり歩くので緩歩動物、一見熊みたいな姿で 体長0・5ミリから1.7ミリと小っこいくせに、千種ほどが、海洋・陸水・陸上を問わず地球上のありとあらゆるところに生きています。

身体の水分が0.05%になる極度の乾燥状態にも、151℃の高温から、ほぼ絶対零度の極低温にも、 真空から7万5千気圧の高圧にも、高線量の紫外線にも、57万レントゲンのX線(人の致死線量は500レントゲン)にも耐える。

ですから、裸のまま宇宙空間に放り投げても生きていけます。エイリアンよりすごいかも、おかげで 長命虫といわれています。

私たちの今日の平安は、あのイスアの化石から矢のように時を貫き、消えることなく燃え続ける偉大な生命の炎が手渡されて、私たちの中で、こんな柔らかく弱く優しい温もりとなって燃えることで成就されています。

地に立つと、私はその表しか見ることができませんが、その表皮一枚めくると、そこには想像を絶する強 靱な意志を持つ生命潮流の時の地層が存在します。

その重力に、私は地の上に直立し、そして拝礼します。

幼い頃、小鳥を手に包んだ時、その小さな温もりに驚きました。
誰かに手を諸手で包まれると、その手の中の柔らかな暖かさは、彼の人のか私のか、区別がつきません。
共に分かつ、同じ命の優しさです。

世界には、あまたの川が各々流れて、同じ川は一つもないけれど、全ていつかは一つ海に注ぎ、溶け合います。
空から海から川へと逆さに見ると、実は一つのものが枝分かれしているのですね。

幾多の苦難に滅ばず、今 地球に命が栄えているということは、宇宙にはこんな小さな 柔らかく弱きも のをも育む意志があるだと確信し、空を仰ぐと、星の火がいっぱい灯っています。

そして、透きとおった空の中を、金色の流れ星のように姫ホタルが降りてきて、草むらに灯りました。
天のホタルと地のホタル、示し合わせてその明滅を同期したいのです。

人をも含めた命のミクロコスモスと、計り知れない時空を持つマクロコスモスが手をつなぎます。
いずれにしろ、一つのいれものの中の出来事ですから。

そして、限りあるものの住まいである地と、限りないものの住まいである天は、決して離ればなれではなく、地にあるものは孤児でないのだと告げます。

私たちが目を開けば、見える世界を、地と天とに分かつことは決してできません。
それは、地から天の果てまで、見ることも 聞くことも 触ることも できないけれど、一つの理に貫かれていることの証です。

トランペットを胸に海を見つめる佐々木瑠璃さんの姿は、内に灯る命の火があらゆる事も乗り越えていく輝きを感じさせ、未来を開く生命へのヴィジョンを私に夢見させました。

そのヴィジョンを見る力は、人それぞれの個性の中に在ると言うより、人間としての本能の中に在ると言 えるでしょう。

人が考える限りもっとも悲惨な状況下に置かれたアウシュビッツから生還した精神医学者のフランクルは 、その名著『夜と霧』の中で、過酷の状況の中でも、人間性の輝きが個人の中に出現する美しいエピソードをたくさん語っています。

一方、メルトアウトの危険性の去らない世界史上最悪のメルトダウンを起こした原発破壊について、昨年12月1日に「″いのち″を犠牲にする発電はやめよう」と、全国寺院の9割以上が加盟する全日本仏教会が声明を出しました。

この″いのち″へのメッセージはは、人間だけではなく動植物をもすべて含めたものであり、言い換えれば 命を育むガイアとしての地球を犠牲にするな! と云っても良いのではないでしょうか。

よく『 原 爆 』と『 原 発 』は一字違いと云われますが、共に原理は同じで、物質の核分裂のエネルギーです。

原理は、あの宇宙の全ての働きをたった五文字で表した有名なアインシュタインのエネルギーと物質の質量の等価式【 エネルギー(E) = 質量(m)×光速度(c)の2乗 】によります。

広島原爆の爆心地の慰霊碑の中央の少女が抱えている箱には当時「原爆」という言葉が使えなかったために、原爆の原理であるこの【 E=mc² 】の関係式が刻まれています。

爆心地上空わずか600mに太陽の表面温度と同じ火球が出現しました。
地表は6000度に溶け沸騰し、何一つ残らず蒸発しました。

台風の暴風エネルギーの1,000倍の爆風が全てを木っ端微塵にした。

第二次世界大戦末期の東京を廃墟と化した大空襲でも参加 B29爆撃機は279機であったのが、空を埋め尽 くすB29爆撃機3000機分の破壊が黒い雨の闇のなかで、人も命あるすべてのものも建物も全て焼き尽くしました。

ところが、この人類史上最大の破壊をなしたのは、信じられないことにたった 7 グラム の質量【 m 】のウランの中に閉じ込められていたエネルギー なのです。                                      
もし、1グラムの角砂糖の中のエネルギーを全て解放できれば、100wの電球を2億5千万個も1時間灯すことができます。

宇宙のすべての物質のを作る原子の核の中に閉じ込められたエネルギーを核分裂により解き放てばいかなる事になるか分かります。

何故こういう事になるかと云いますと、【 E=mc² 】の光速の【 c 】の持つ運動エネルギーに秘密があります。

銃のなかでも強力なライフル銃の弾丸の初速は、秒速 1km/s です。

目もくらむような閃光と地獄の底からわき出すようなすさまじい轟音で地球の重力に打ち勝ち、人類を月 に送ったアポロ11号を乗せた3500㌧もの重さがある巨大ロケット:サターンロケット の打ち上げ速度でも 、秒速 11.2 km/s です。

これらに比すると【 c 】 は 【 秒速 300000 km/s 】 !

たとえ7グラムの質量といえど、これの2乗 90000000000 km/s をかけるわけですから、いかにすさまじいエネルギーになるか! 広島を壊滅させたことも分かります。

『 原 爆 』はそれをモロに出しました。
『 原 発 』は、それをコントロールしようとします。
しかし、その公布されていた’安全’とはいかなるものであったかは、事実が暴きました。

0.00~の後いくらゼロが続こうが、最後が1ではなくゼロでない限り、’安全’という言葉は恣意による欺瞞でした。

結果が許される範囲のものであれば、蓋然性の安全も許されるものがあるでしょうが、人の触れてはならぬ’神の火’にも値する宇宙万物の素、原子の核の中の力を、神のはらわたを裂くように解き放って、果たして人の力で完璧に安全にコントロールできるものでしょうか。

原発では、運転される限り、人類が初めて作り出した人工核種であり「かつて人類が遭遇した物質のうちでも最高の毒性をもつ」とされるプルトニウムが増産され続けます。

そのプルトニウム 239Pu の放射能の半減期は2万4千年、その想像を絶する長期にわたり、誰が完璧に 安全に管理でききると言えるでしょうか。
まさに、「″いのち″を犠牲にする発電」として人類史の未来に関わります。

人類史の未来に陰りをよぶものについて、未来への希望なくしては生きられない人間性の原点において、許してはならないと思うのです。

長々と書きましたが、以上が皆様方と語り合いたかった事柄です。

またいつか機会がございましたら、是非お目にかかりたいと思っています。

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