宇宙で一番冷たい光り

宇宙で一番冷たい光り

ブーメラン星雲

‘ブーメラン星雲’は、その神秘的な美しい光りで、たくさんの方のお心を捉えました。ハッブル望遠鏡の最新の成果です。

この星は、南半球のケンタウルス座にあり、地球から5000光年の彼方に存在します。(5000光年!全然イメージできないとこが悲しい。(笑)
このケンタウルス座には、星好きな人たち誰もが一度はこの目で見てみたいとこがれる‘ω(オメガ)星団 ’、数百万個の太陽がボール状に密集し輝く球状星団、宇宙の年齢よりも古いというパラドックスを持つ大銀河の美しい瞳があります。

ケンタウルスはトクですね、こんな宇宙でも稀なる特異な星を二つも持って。しかも隣には‘石炭袋’と‘ジュエルボックス’を持つ“南十字星”!
もう、賢治でさえ“銀河鉄道の夜”で、あの幻想的な星祭りを“ケンタウルス祭”と呼びたくなったのですね。

この星雲は今、天文分野では一番の話題で、発見されるまで、宇宙空間で一番低い温度は、ビッグバンの残り火「宇宙背景放射」の-270℃とされていました。
この星雲の【ー272℃】は、宇宙空間の膨張の行く末を教える絶対零度にあとたった1℃!、この先どうなるのか、もうハラハラドキドキです。
広大な宇宙空間で人の知るところでは【ー272℃】は、この美しい光りの一点以外どこにも見あたりません。いったい何が起こっているのでしょう。

星は燃やす物がなくなると最後、蝋燭の燃え尽きる前と同じく、光りの花となります。近くに行くともう大変ですが、遠くで見てる限りはどの星も本当にため息がでるくらいきれいです。“惑星状星雲”といいますが、このブーメラン星雲はそれへの過程にあるものとされています。

私も初めて見た時にはとても感動し、忘れられない印象が残りました。
星の死につつある姿なのですが、中心から時速60万キロ(地球では4分ごとに昼夜が入れ替わる速度で、目を回すどころの話しじゃないですね。)と いうとてもつもない超高速でガスが吹き出し、命の元が自家消費され奪われています。まるで自分の足を食べる蛸みたいな状態で、命つき果てるまで、絶対零度 の永遠の暗黒と静けさの極点を目指して、盲目の意志が宿命の荒野を疾駆しているのです。

しかし、人はあまりにも美しすぎるものには反面、悲劇のカタルシスを感じますが、それにしてもナンのために為される営みなのか、解きえない疑問符が残ります。
でもこの【?】の効能は絶大ですね。朦朧と様々なことを思わせます。

デジャービュ(既視感)のような不思議な浮遊感の中で、昔、京都の嵯峨野に、人間国宝の染色家・志村ふくみさんをお訪ねした折のことを思い出しました。
ところが、お訪ねする途中、由緒ある古刹、嵯峨釈迦堂にふと呼ばれるように立ち寄ったのが、いけなかった(笑)。

釈迦如来 

そこで釈迦如来(国宝)の御顔を仰ぎ見た時、偶然の光陰のたわむれか、象嵌の瞳がキラッと光ったのです。
若さとは怖いもので「エッ!、僕を見た。」と思いこんでしまったのが運の尽き(笑)、あとはもう、釈迦如来の荘厳な存在感に圧倒されて、やりたい放題、心の暴走を止める手だてはありませんでした。

仏は、その侵しがたい静けさを湛えた御顔の懐に宇宙のすべてを、そう!あの最初の大爆発さえも納めて、尚その静けさなのだとふと思ったがさいご、 今この御仏の顔を叩き割れば、その中空に神の瞳のごとく一粒の光りが存在し、まさにこの場にビッグバーンとして大爆発するのだ、と確信してしまいました。 場所柄、思わず大好きな梶井基次郎が出てきてしまったのです。

「あァ!ものの真実の姿とは、実に皆こういうものなのだ。」と目がくらみました
『 一瞬百由旬を飛んでるぞ、けれども見ろ、少しも動いていない』 御仏は賢治の玲瓏なチェラ高原の天使の太極図そのままの有り様でした。

そして、この宇宙という入れものが非凡なるなら、中身の全ても凡ならず、その正体はそと同等なり、と単刀直入、恥ずかしくなるほど単純すぎる直感 に大いにとまどいながらも、そのイデアの明るさに慰められ、およそ万物全て、小石一つでさえそうなのだと、以後私のものを見つめる視点を変えました。

宇宙の宝石

あァ!この宇宙で最も冷たく凍りついた美しい炎は、あの時と同じものを私に伝えている。
物の身でありながら、その為していることは、釈迦の不施行の極地“捨身飼虎”であり、またパッション(イエスの受難)と同等なのだと思いました。

生々流転する宇宙の物達が、己以上のものならんとする無言の願いを託されて、物であらざるものとなる場、地獄か極楽か絶対零度の極限に疾走し、その成就の生け贄ならんとする尊い姿に思えました。

このギリシャ悲劇の自己犠牲を、神が哀れに思し召したか、世にもまれなる虹色の光りを与えました。そしてその光りを更なる美しさに輝かせているものは、ほかならぬ絶対零度の暗黒の光背です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です